もののなまえ

万物には名前があります。

ものすごく不思議ですよね。

存在しないものにも名前はあります。

認識できるからです。

 

たとえばお化け。

お化けの存在は証明されていません。僕の知る限り。

でもお化けという名前はみんな知ってます。

見たこともないけど、お化けという概念を認識しているからです。

 

またわれわれの世界には異なる言語が存在します。

異なる文化、異なる名前。

 

異国で暮らしていると、

「そういえば、これって英語でなんていうんだろう?」と

思うことがたくさんあります。



今日職場で僕はバインダーを探してました。

バインダーですよ、バインダー。

あの硬い板の上にクリップが付いてて紙とか挟むやつ。

小さい頃習字に通ってたとき、紙を置いて練習させられたやつ。

工事現場とかでヘルメット被ったスーツ姿のおっちゃんとかが小脇に抱えてるようなやつ。

 

あれがどっかになかったかなーと思って

物置を探してました。

 

・・・なかなか見つからない。

でもアメリカでも見かけたことはあるから、バインダー自体が存在しないわけじゃない。

 

そんでそのときふと「バインダーって、英語でなんていうんだろう?」

と思いました。

 

バインダー。

 

いかにも和製英語くさい。

とりあえず”binder”みたいな感じで英語っぽい発音を想像してみる。

・・・「こいつ何言ってんだ?」みたいなリアクションされそう・・・。

説明しようにも、ボードみたいなやつにクリップが付いてて・・くらいしか思いつかん。

やっぱり電子辞書先生に聞いてみるべきなのか。

 

などと考えていたら、結局ラックの隅にバインダーを発見!

意気揚々とバインダーを抱えてオフィスに戻った僕は

試しに他のスタッフに聞いてみました。

 

「これって何て呼ぶ?」

 

「クリップボード “Clipboard”」

 

「な、なるほど。。ちなみにおれらはバインダーって呼んでるよ」

 

「バインダーって言ったらこれでしょ」

 

そういって取り出したのはファイル。

アルバムみたいなタイプのファイル。

 

「それはファイルじゃん」

 

「ファイルって言ったらこれでしょ」

 

そういって取り出したのは紙のファイル。

クリアファイルの紙バージョンみたいなファイル。

 

「それもファイルだけど、バインダーもファイルじゃん」

 

「じゃあ全部ファイルになっちゃうじゃん!」

 

「いやそもそも全部ファイルでいいんだよ!」




なんだかややこしい。

こういう地味ぃ~な違いみたいなの、ありますね。

 

万物に名前があります。

それで似たようなものを区別するために名前をつけたり

つけなかったりするわけで。



僕らの思考が名前を通じて概念を認識するところから

スタートしている限り、

同じものを違う名前で眺めてみることは

いつだって新鮮な驚きに溢れています。

 

それもまた異国で生きることの楽しみのひとつと言えるでしょう。

もののなまえのもののあはれ。

いとおかし。